どう老いる?ストレイト・ストーリーが教えてくれる後悔しない老い方

人は20歳あたりをピークに肉体は衰え始める。微々たる変化で最初のうちは自覚しづらい。

白髪とか抜け毛より早く気づく客観的な方法でいうと、たとえば「20XX年の有名人の訃報」みたいなまとめ記事を見たとする。若いうちはそのほとんどが知らない人ばかり。やがてちらほら知っている人が出てきて、徐々にその割合が増えていく。

そんな中、2025年が明けてまもなくの訃報で悲しかったのはデヴィッド・リンチ。彼の独特の世界観が好きでした。78歳は早いな。この人、1月20日生まれで1月16日が命日なんですね。

虫の知らせだったのか、昨年末、「ツイン・ピークス」全話を観直したところだったので、今回は追悼として「ストレイト・ストーリー」を観ることにした。

歳をとるのは悪いことばかりじゃなくて、過去に観た映画やドラマをもう一度見返して新しい発見が得られる時期だったりする。

ストレイト・ストーリー(1999年)とは

デヴィッド・リンチ監督が実話を基に描いたアメリカの中西部を舞台にしたロードムービー。リンチ作品としては珍しくシンプルなストーリーです。でもそれは見せかけ。

あらすじ

アイオワ州の小さな町ローレンスに娘のローズと暮らすアルヴィンは、ある日、10年来仲違いしていた76歳の兄ライルが脳卒中で倒れたという知らせを受ける。兄との和解を望んだアルヴィンは、370マイル(約595km)離れたウィスコンシン州マウント・ザイオンにある兄の家を目指して旅に出ることを決意する。しかし、足腰が不自由で車の運転もできないアルヴィンにとって、唯一の交通手段は時速わずか8キロの芝刈り機だった。

この無謀な旅の中で、アルヴィンは様々な困難に直面する。芝刈り機の故障や悪天候などに見舞われながらも、道中で出会う人々との交流を通じて、人生の知恵を分かち合い、心を通わせる。

杖がなければ歩くことができない老人の時速8キロの旅、はたして兄と再会し和解できるのか……

アルヴィンが兄と和解したかった理由 (ネタバレ含)

幼い頃仲良しだった兄弟が大人になってから、とあることがきっかけで仲違いしたまま10年が過ぎてしまった。73歳と76歳、2人とも残された時間はもう多くはない。

作品内では、確執のきっかけが何だったのか具体的には語られていない。
でも、おそらくアルヴィンの記憶にはしっかりと刻まれているんだと思う。

そのことが、仲の良かったあの頃を取り戻すために、固い決意でライルのもとに向かわせたのだろう。

旅の終わりに、アルヴィンは兄ライルとの再会を果たし、長年の確執を解消する。そして、かつてのように兄弟で並んで椅子に腰かけ、星空を眺めるという目的を達成するのだった。

ただただ年老いた兄弟が黙って星空を見上げるシーン。言葉がなくても彼らは通じ合っている、そう感じさせるぐっとくるラストでした。

老いの一番嫌なところとは

旅の途中、アルヴィンはいろんな人と出会い交流する。

出会いの度に、アルヴィンのこれまでの人生を垣間見ることができる。どんな子供時代だったのか、戦場でどんなことがあったのか、妻や子供たちとのことなど。

ある日、サイクリストの大集団に追い抜かれる。その夜、彼らのキャンプ地に追いついたアルヴィンは温かく迎えられ、そこで、彼らと語り合う。

若い彼らから、老いることの一番嫌なところは何かと聞かれたアルヴィンは「若い頃を思い出すこと」と答える。

私は、どちらかと言うと未来思考であまり過去を振り返らないタイプのせいか、このセリフを聞いたときにピンとこなかったです。自分がまだこの域に達していないのか、それとも個人差なのか。アルヴィンの年齢になる頃、またこの作品を見直さねば。

未知の老いについて思いを馳せる

アルヴィンに出会った人たちは、彼の旅の行程を知るとみんな一様に驚く。

しかし、彼に対する態度は人それぞれで、人生の先輩としてリスペクトする者もいれば、同輩として傷を分かち合う者、老人だと思って騙そうとする者などいろいろ。

一方で、彼らに対するアルヴィンの態度は一貫していて、常に寛容で礼儀正しい。

アルヴィンは、身体的な衰えを自覚しつつも、精神は肉体ほどの衰えがなく、見ていてそこが切ない。
彼は体が少しでも動くうちに、心の中で未解決だった家族の問題を解決し、兄との関係を修復したいと思っている。時速8キロのゆっくりとした長旅は、自身の過去と向き合い、心の整理をする時間でもあったのでしょう。もし自分が彼だったらどんな思いを巡らしながら旅をしているだろう。

老いを受け入れる生き方

アルヴィンは自分の身体が抱えている問題を正面から受け止めたうえで、自分の意志で判断し行動している。過去を清算しようとする旅は終活のように見えるけれど、未来に向けて再スタートするようにも感じる。

兄と和解するためのこの旅は、彼の残りの人生を豊かにしたはず。

ゆっくり進む時間の豊かさともどかしさ

この作品の見どころとして、時間の流れがある。

一見のんびりとした見かけとは裏腹に、実はタイムアップが迫っている急ぐ旅なのだ。

だから、この作品を倍速視聴することは絶対におすすめしない。
意味がないどころか、むしろ倍速にすることで時間が無駄になる。

もうひとつの見どころは、実話であるところ。

73歳のおじいちゃんが、日本で言うと東京から大阪までの距離を、単独で、しかも芝刈り機で走破したとなったらそりゃぁ話題にもなるわ。

この作品は、1994年にニューヨーク・タイムズ紙に掲載された実話が基になっていることもさることながら、主演のリチャード・ファーンズワースは撮影時にすでに末期がんで、闘病生活を続けながらの演技だったということ。

そして、彼はこの映画の公開翌年、がんによる苦痛から自ら命を絶っており、「ストレイト・ストーリー」が彼の遺作となった。

さいごに

「ストレイト・ストーリー」を久しぶりに観て、自分自身の変化を感じました。前回見たときは、やたら涙していた気がする。寡黙なおじいちゃんが頑張ってる姿に弱い体質なので 笑。
今回は、アルヴィンが人々と交流する際に、どんな風に接していたか、ポロッと口にする自身の体験談の重みを感じたり、画面に映し出されない旅の行程を想像して、学ぶ事が多かったので泣いてる場合じゃなかったのかも。

デヴィッド・リンチの作品の中では、「ストレイト・ストーリー」と「ツイン・ピークス」シリーズが好き。彼の作品の独特のストーリーと世界観にハマっているときの没入感がたまらない。その要因のひとつとして音楽があると思う。

今年に入ってから、Amazon Music Unlimitedに「ツイン・ピークス」のプレイリストがあるのを知りヘビロテしている。時にカッコよく、時に甘く、切ないようで癒やされるような楽曲の数々で、しばらくは亡き人を偲びましょうか。

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